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「タッチポイント」における、ふるまい方やあり方の選択
(これまで当欄で『U理論』や『学習する組織』をご紹介しましたが、それを読んでも現場でどうすればよいかよくわからない、という方向きには、実際の経営者が最新の組織開発手法をふまえてリーダーシップについて書いた本書をお薦めします。)
著者はキャンベルスープカンパニーの会長兼CEOのダグラス・コナンら。原書タイトルは「Touch Points(タッチポイント)」ですが、これは2人以上の人が接する場面のことです。例えば、重要なプレゼンテーションを翌日に控えて準備しているところに、部下から緊急の相談を受けた場合、どのようにふるまうでしょうか?
タッチポイントは週に数十件、年間に数千件にも及びますが、そういった場面でのふるまい方やあり方の選択が組織に大きな影響を与えます。今日のネットワーク社会では、「今ここ」の瞬間の可能性に向き合い続けることで、タッチポイントでの影響が幾何級数的に増大していくのです。
周囲の人が何を得られるかを志向し、そのために「今ここ」の瞬間に生きる
リーダーシップのスタイルは、20世紀には「組織をマシーンである」とみなし、効率を重視する主張型が重視されました。しかし近年の組織開発では、「組織は生命システムである」として、コミュニティを重視する適応型のスタイルが注目されています。
コナン氏は、そのどちらかを選択するのではなく、両方のスタイルをあわせもち、状況に応じて使い分け、因果関係を俯瞰した上で、それぞれの組織の文脈に合わせたリーダーシップモデルの開発が肝要であると言います。頭、心、手を動員してプロトタイプを試しながら、継続的に実践を続けてリーダーシップを高めることが、ほかならぬリーダーの責任です。
リーダーが問うべきなのは、「なぜリードすることを選んだか?」「何が大切な規範か?」「自ら言っていることを実行しているか?」「自分自身への説明責任を果たしているか?」です。状況を注意深く観察し、自身の選択肢の幅を広げ、偽りなく志への情熱を傾け、状況に適応して行うべきことを高いレベルで実践することが求められます。リーダーシップとは、自分が何を得られるかではなく、周囲の人々が何を得られるか、を志向するものです。そのために「今ここ」の瞬間に生きることがリーダーシップの本質といえるでしょう。
近年の組織開発を踏まえたリーダーシップの受け入れ方や、従前のリーダーシップとの折り合いのつけ方について、的確な視点を与えてくれる本です。
『リーダーの本当の仕事とは何か―わずかな瞬間で相手の抱える問題を解決する3つのステップ』
(ダグラス・コナン、メッテ・ノルガード著、有賀裕子訳、ダイヤモンド社刊)