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ピーター・センゲ 「グローバル経済において望ましい未来を創り出す(1)」

2008年11月21日

000160-01.png(photo by David B. Gleason on flicker

「グローバル社会で生きるとはどういうことか」 

リーダーにとっていちばん基本的な仕事は結果を創り出すことである。だが今や、他から孤立した状態で良い結果を生み出すことは不可能である。組織、経済、そして社会全体が互いのつながりを深める中、私たちの行動は他に影響を与えるとともに、他の影響を受ける。時にそれはまったく離れた世界との間でも起こる。今日の世界では、「グローバル社会で生きるとはどういうことか」というより根源的な問いを自らに問うこともせず、「職場でいかに影響力を及ぼすか」について考えることはできない。 

私にこの問いをはっきりと認識させてくれたのは、世界銀行の最も才気溢れる幹部の一人である西水美恵子氏である。彼女は、2002年8月に開かれたSoLのエグゼクティブ・チャンピオンズ・ワークショップ(企業上層部向けワークショップ)に出席したすぐ後、第二次世界大戦後に締結されたブレトンウッズ協定への日本加盟50周年を祝う企業や政府のリーダーたちを前に基調講演を行った。彼女はこうした内容について、こういった場には通常見られないほど心をこめて、「物質的な豊かさの恩恵を受けて育った自分にとって、貧困に正面から取り組むとはどういうことか」について語った。

彼女は一人のインド人女性との出会いを例に挙げた。きれいな水を汲みに行くのに毎日4時間歩かなくてはならなかったその女性は、一緒に歩きながら西水氏にこう言ったのだ。「これは人生ではない。ただ単に命をつないでいるだけ」と。西水氏にとっては、途上国の大半でますます多くの人にとって現実となっているこうした状況を、加速するグローバル社会を形づくる力と切り離して考えることはできない。

  未来は私たちにはまるで違う世界のように見えます。
  未来がこれまでの世界と最も大きく異なる点は、
  地球そのものが、その未来を形づくり測定する大切な存在だということです。
  未来を方向づける決定的な問題は、すべて基本的には地球全体にかかわることです。
  私たちは、一つのつながり合うネットワークに組み込まれており、
  そこから逃れることはできません。
  生態系のつながり、情報や考え方、人、モノ、サービスのより自由な移動のつながり、
  平和と安全のつながり、といった具合です。
  実際に私たちはこの地球上でたった一枚の運命の織物にしっかりと結ばれています。
  ある国をこの布から引き裂こうとするような政策や行動は決してうまくいかないでしょう。

  [編注:西水美恵子氏のスピーチの全文(英語)をお読みになりたい方は
  こちらのPDFをご覧ください] 

「一人の人間として自分は何者なのか」 -持続可能な取り組みへ向けて

真のグローバル社会に向けて準備ができている組織は数えるほどしかない。それどころか私たちは、自然界の投じてくれた投資――生理的、認知的、心理的、そして文化的な進化――はうまく機能していない。私たちの神経構造は、突然で劇的な環境の変化に対応するよう調整される。手を大きく叩けば、その結果は即座に見える。私たちは差し当たって必要なことや目の前にある問題に焦点を当て、「目に見えるものこそが紛れもない現実である」という思い込みにとらわれる。私たちは何千年にもわたり、自分の家族や仲間、そして身近な社会の構造に溶け込むようにと教えられてきた。こうした習慣を打ち破り、人類全体と共感することが求められる未来は、たしかにまるで違う世界のように見える。

一方私たちは、いくつかの点ではずっと以前から世界における自分の立場をきちんと理解してきた。表土を失ったり地元の漁場を崩壊させたりすれば、自分たちがそのツケを払うということを歴史の早い段階で学んでいる。今日、これを持続可能性と呼ぶ。だが、私たちはこれまで、自分たちの行動が、グローバル企業を通じて地球の反対側に重大な影響を及ぼし得る世界にくらしたことはなったし、他の行動にこれほど依存したこともなかった。1980年代後半に米国で実施された緊急時対策調査による推計では、米国人一人が消費する標準的な食料の平均輸送距離は1,500マイル(約2,400キロメートル)であり、しばしば輸入ものであった。その後何年にもわたり、生活に欠かせないモノやサービスに関する先進国の途上国への依存度は増すばかりである。

このようにこれまでとはまるで違うつながり合う世界にくらすという挑戦は、現実的なことであると同時に、私たち一人ひとりに深くかかわることでもある。とどのつまり、私たちはこうした挑戦によって、「一人の人間として自分は何者なのか」「地域の仲間たちのネットワークの中で自分はどういう存在なのか」「自分が全力で取り組むことは何か」についてじっくりと考えることにつながるのだ。こうした気づきは、経営者や教師、親、そして市民としての取り組みにおいて効果を発揮するのに欠かせないものである。

(つづく)


ピーター・M・センゲ

マサチューセッツ工科大学上級講師。SoL (Society for Organizational Learning, 組織学習協会)設立者。The Journal of Business Strategyにより過去100年でビジネス戦略に最も強く影響を及ぼした1人であるとされている。著書である『The Fifth Discipline: the Art and Practice of the Learning Organization』(『最強組織の法則― 新時代のチームワークとは何か』徳間書店、1995年)はハーバード・ビジネス・レビュー誌より、過去75年における最も優れた経営書の1つであると評価される。

[SoL(Society for Organizational Learning、米国ケンブリッジ)発行の「Reflections」
から許可を得て翻訳]

このエッセイは、氏の設立したSoLの機関紙『Reflections』から許可を得て翻訳しています。
その他の回の内容を読みたい方はこちらからどうぞ。

1回目:「グローバル経済において望ましい未来を創り出す(1)」
2回目:「グローバル経済において望ましい未来を創り出す(2)」
3回目:「グローバル経済において望ましい未来を創り出す(3)」
4回目:「グローバル経済において望ましい未来を創り出す(4)」
5回目:「グローバル経済において望ましい未来を創り出す(5)」
6回目:「グローバル経済において望ましい未来を創り出す(6)」

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