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ピーター・センゲ 「グローバル経済において望ましい未来を創り出す(4)」

000174-01.png(image photo by Paul VanDerWerf)

(世界的なマネジメント・グールーで知られるピーター・センゲ氏がグローバル経済について語ったエッセイの続編をシリーズでご紹介しています。)

つながりを見失う~システム思考スキルの欠如~

グローバル社会における不均衡――所得配分や市民社会の発展、生命システムの破壊――を正すには、自然や社会システムに広がるつながりを理解しなくてはならない。だが、私たちの多くにとって、現代社会の雑音はこうしたつながりを見えにくくする。その結果、まずは自分自身の思考が妨げられ、そして行動が妨げられる。たとえば、MITのジョン・スターマンによる最近の調査を見ると、地球温暖化に対する漠然とした不安が、なぜ必ずしも政治的な行動へと移行しないかが分かる。

スターマンは、人々の考え方の中に奇妙なずれがあることを強く感じた。世論調査によれば、ほとんどの米国人は、地球温暖化を現実のものと考えているのに、これを何とかしなくてはという切迫感がほとんどないという。スターマンは、「こうした無頓着さの原因はおおかたシステム思考のスキルの乏しさにある」という自身の仮説を証明するため、同僚のリンダ・ブース・スウィーニーと共に思考の実験を考案した。彼らは、これまでに分かっている大気中のCO2量(ストック)と新たなCO2排出量(フロー)を基に、2つの異なるシナリオを作った。そして3つの名門大学の大学院生たちに各シナリオについて起こり得る結果を予測させたのだ。すると、3分の2近い学生が、論理的な帰結となる動向、すなわち温暖化が続くということを認識できなかった。このお粗末な結果は、専門的な理解が欠けていたせいではなく、ストック(現在の大気中CO2の水準)とフロー(CO2が新たに排出されるスピード)の関係を見抜く力がなかったことによる。CO2を新たに排出するスピードが、大気中から取り除かれるCO2のスピードを上回れば、CO2全体の水準は上昇し続け、それに伴い地球温暖化の可能性も増していく。

世界の否定しがたい複雑性を理解する力、共有する能力

根底にあるこうした相互のつながりを見分けることができなければ、政治家であろうが一般市民であろうが、「こんな問題は存在しない」とか「誰かが何とかしてくれるだろう」と振る舞いがちになるのも無理はない。「こうした失敗はシステム思考教育を極めておろそかにしたことによるものだ」と考える教育者が、スターマンやブース・スウィーニーをはじめ世界中に増えつつある。相互依存が深まる世界では、システム思考が教育の最優先課題にならなくてはならないということだ。ハーバード大学の元教育学部長で、米国エッセンシャル・スクール連盟の創設者でもあるテッド・サイザーはこう記している。「私たちが直面している複雑性と、その複雑性への理解を共有できるようになる能力とのギャップが拡大していることは、私たちの未来にこれまでにない難題を突きつけていると言っても過言ではない。年長の学生でさえ、世界の否定しがたい複雑性をほとんど理解していない」

だが、地球温暖化のような問題の緊急性が抑えられたり、欠けたままである限り、教育の抜本的改革に向けた原動力にはブレーキがかかったままとなるだろう。私たちは「八方ふさがりの状態」に陥っている。私たちは決して、これらの問題をもっと差し迫った身近な問題を見るのと同じようには見ないため、システム全体の不均衡に目を向けざるを得ない状況にならないのだ。また、「緊急性」を、目の前にあることかどうかで判断するため、システム全体に及んでいる問題をとらえることができないでいる。私たちは認識の危機を自ら増幅させ、その犠牲者となっている――言ってみれば自分自身で招いた危機なのだ。こうしたことが続けば、私たちの行き着く先は受身の連続である。重い腰を上げて行動に出るのは大惨事が起きたときのみとなる。社会格差の拡大によって、富める者と貧しい者とで地球温暖化などの問題による影響に差が出ることを考えれば、こうした状況によって社会的、政治的崩壊をきたす可能性は高い――これはすでに世界中で私たちが目撃し始めていることであるが。

私の考えでは、欧米の物質主義的な世界観をがらりと変えないことには、こうした認識の危機を取り除くことはできない。世界中のすべての人々が全体感を深められるようにするにはどうすればよいだろうか――すなわち、社会、経済、環境のシステムを共有するにはどうすればよいだろうか? おそらくその幕開けは、どのような立場であろうと、世界のどこででも生きることを可能にする素晴らしいつながりの「網」をみんなが認識し、かつ、この網の中での自分たちの意識の果たす役割をみんなが理解し始めるときであろう。

(つづく)


ピーター・M・センゲ

マサチューセッツ工科大学上級講師。SoL (Society for Organizational
Learning, 組織学習協会)設立者。The Journal of Business Strategyにより過
去100年でビジネス戦略に最も強く影響を及ぼした1人であるとされている。著
書である『The Fifth Discipline: the Art and Practice of the Learning
Organization』(『最強組織の法則― 新時代のチームワークとは何か』徳間書
店、1995年)はハーバード・ビジネス・レビュー誌より、過去75年における最も
優れた経営書の1つであると評価される。

このエッセイは、氏の設立したSoLの機関紙『Reflections』から許可を得て翻訳しています。
その他の回の内容を読みたい方はこちらからどうぞ。

1回目:「グローバル経済において望ましい未来を創り出す(1)」
2回目:「グローバル経済において望ましい未来を創り出す(2)」
3回目:「グローバル経済において望ましい未来を創り出す(3)」
4回目:「グローバル経済において望ましい未来を創り出す(4)」
5回目:「グローバル経済において望ましい未来を創り出す(5)」
6回目:「グローバル経済において望ましい未来を創り出す(6)」

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