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システム原型「成長の限界」(3)

 前回、ビジネスでよく見られる「成長の限界」を紹介しました。あらゆるビジネスは、ある特定の地域で、あるニーズを満たす範囲において、市場の飽和またはニーズを満たすための資源の枯渇によって成長の限界を迎えます。しかし、多くのビジネスは、潜在市場規模に至るよりもずっと早い段階で成長の限界を迎えます。

なぜ成長の余地を残しているのに成長が止まってしまうのでしょうか? たくさんの理由が考えられます。そもそもニーズを満たしていない場合や、競合や代替商品がより優れた価値を提供している場合、あるいは規制が変わりそのビジネスが行えなくなる場合などです。外部環境は日々刻々と変化していますので、その環境変化に適応できなければ、どんなにうまくいっているビジネスも成長し続けることはできません。

しかし、成長余地を多く残して成長が止まってしまう本当の理由は、外部よりもむしろ自社の戦略にあることが多いようです。この点について、システム・ダイナミクスの創設者であるジェイ・フォレスターが1959年に出した「市場の成長」論文の中で有益な示唆を与えてくれています。

もともと優秀なエンジニアであり、またMITのスローン・ビジネス・スクールの教授であったフォレスターは、多くのハイテク企業の社外取締役を務め、企業の成功例と失敗例を数多く見てきました。

当時はハイテク産業の黎明期でしたので、潜在的な市場規模は巨大で、市場の飽和は遙か先です。また、供給の制約となるような資源枯渇の心配もありません。しかも、彼の目から見たとき、失敗する企業の技術力や商品力は、成功する企業にけしてひけをとらず、競争力という点でも見劣りはしませんでした。にもかかわらず多くのハイテク企業の成長は、早熟のうちに頭打ちしていきました。

フォレスターはそれらの企業を観察し、経営者の話を聞いていく中で、彼はほとんどの企業は、外部環境ではなく、自社の戦略自体が成長の制約を生み出していることに気付いたのです。その要旨を以下に紹介します。

まず販売部隊は、顧客のニーズを満たす商品を販売します。そして、売上をあげてその利益の一部を営業・マーケティングに再投資します。ほとんどの企業は、売上の○~○%など、販売予算を売上に対する割合で設定しますので、売上が上がれば上がるほど販売部隊の経営資源は増え、その資源を営業力として活用することでさらに売上をあげる自己強化型ループを形成します。

受注量が増えると、工場での生産量が上がり、出荷量が増大します。しかし、生産能力には限界がありますので、フル稼働に近づくと出荷量は受注量に追いつかなくなります。それによって、受注残が増大し、BBレシオ(受注出荷比率:出荷額に対する受注額の割合)が大きくなります。

生産能力を増やす投資を行うかどうかは、経営陣が決定します。投資決定にあたり、経営陣がもっとも着目する指標はBBレシオです。販売部隊からのフォアキャストは参考にすることがあっても、それにあわせて投資は行いません。販売部隊の売上予測は概して楽観的で、経費予算の拡大を増やすために大風呂敷を広げることも多いからです。そのため、実際の工場での生産量が上がり、BBレシオの高まりを見て初めて市場があると判断して投資の決定を下していました。

ところが、工場や生産ラインの拡張は一朝一夕にはできません。早くても数ヶ月、ほとんどの場合は1~2年を要するでしょう。その間も経営資源の潤沢な販売部隊はどんどん受注をとってくるので、受注残がふくれあがり、顧客への納期はどんどんと長くなっていきます。ただし、顧客の我慢の範囲において、ですが。

発注した顧客は、少し遅れて、その企業の納期の信頼度に深い懸念を覚えるようになります。よくQCDSと言いますが、「品質、コスト、納期、サービス」はビジネス顧客の購買決定の主要要因と言われています。(最近は「ESG:環境、社会、ガバナンス」が加わります。)こんなに待たされるならば、多少見劣りがしてもほかの企業に乗り換えた方がよいと思う顧客も出てきます。販売部隊も、納期が長いために新規の受注よりも、顧客の苦情対応や出荷を何とか確保するための調整に追われ、その営業力は徐々に落ちていきます。

こうして、それまで順調に成長を続けていた企業も、納期が長くなってしまうために成長が頭打ちをします。しかも、頭打ちをした頃からまもなく生産能力が拡張されるので経営陣はいよいよ大慌てです。大量の余剰キャパシティを抱えたところで、受注量が思うように伸びていないので、「こんなはずではなかった。いったい誰の責任か」と犯人捜しを始めます。

売上が落ちている/伸びていない状況で真っ先に被告席に立つのは十中八九、販売部隊でしょう。ここで株主からのプレッシャーに何かしなくてはとあわてふためく経営陣は、責任者の首をすげかえ、広告代理店やコンサルティング会社を変えたり、販売部隊を入れ換えたりと大なたを振るいます。

皮肉なことに、成長の制約の最大要因であった納期が改善しているので、およそ何をやっても売上はその後回復していきます。ところが、「売上鈍化の犯人は営業責任者/販売部隊である」というメンタルモデルが形成されている経営陣にとっては、売上の好転は自らの舵取りが成功したとしか映りません。経営陣は、ますます販売部隊が売上の成果を決めるというメンタルモデルを強化していきます。

そして再び、売上の成長によって、受注残がたまり、納期に不満な顧客が離れるために成長が頭打ちするというサイクルに突入して、企業の成長は大幅に鈍化していくことになるわけです。まさに自らの戦略と、その戦略のもととなるメンタルモデルが引き起こしている限界に翻弄される結果となっていたのでした。

なぜこのようなことが起こるのかというのはとても興味深いものです。こうしてひとまとめの文章にすると、「何てばかげたことを」と思われるかもしれません。しかし、3~4年の、時間の流れの中で、販売部隊、工場、経営陣とそして顧客のそれぞれの立場で見たときには、きわめて合理的な意思決定を重ねた結果、全体像として起こっているのがこの問題です。

一歩引いて、自分の意思決定の長期的な影響とその全体像を見ることができなければ、誰でも同じような間違いをおかすでしょう。まして、個々には合理的な意思決定を積み重ねておこる問題ですからなおさらです。(経済学者のハーバート・サイモンはこれを「限定合理性」の原則として説明し、ノーベル賞を受賞しています。)

多くの企業は、自らの戦略や意思決定ルールが原因となって、受注残あるいは別の制約要因から起こる提供価値を低下させて、顧客を失い、あるいは潜在顧客のニーズを実現できずにいる、というのがフォレスターの論文の趣旨ということになります。

さて、この構造をループ図に描き、成長が早熟に止まってしまう全体像を理解したとして、あなたはどのような戦略や意思決定ルールを提案しますか?

さまざまな戦略があり、またその選択はパラメーター(条件)によって変わるところもあるので詳しくは論じませんが、一つシステム思考らしい視点を紹介します。

この問題構造のツボの一つは、投資の意思決定から実際の生産能力を増やすまでの間に時間がかかることです。どんなに期間を短縮したとしても時間の遅れがあることには変わりません。この期間中、受注残を増やし、顧客離れを誘う最大の原因は、売上の成長です。この成長が早ければ早いほど、限界のプレッシャーが強くなります。逆に、自ら成長を緩めることができれば、限界のプレッシャーは弱まります。

成長をしようとアクセルを踏めば踏むほど、ブレーキが強まって成長が遅くなる。この自ら創り出すジレンマの構造に気付き、自らを律して成長を緩めることができて初めて、持続的な成長が可能になります。

「速いものが遅く、遅いものが速い」―複雑なシステムの挙動は、多くの経営者やマネージャーの合理性を超えています。私たちは、未だ自らの創り出す「成長の誤謬」を繰り返しているのかもしれません。

次回は、成長の限界を都市のレベルで考えて見ます。

(つづく)

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