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システム原型「成長の限界」(4)

今まで主にビジネスの分野での「成長の限界」を紹介してきました。今号では、都市計画の分野への応用を紹介します。

1950年代MITで開発されたシステム・ダイナミクスを基盤とするシステム思考は、当初産業界へ応用されました。そこから、なぜ景気循環が起こるのか、なぜ企業は成長し、そして多くの企業はその潜在可能性を実現する以前に成長を止めるのかなど、さまざまなシステム構造が、創設者であるジェイ・フォレスターのグループによって解明されていきます。

1960年代、元ボストン市長だったジョン・コリンズがMITの客員教授となって、偶然、ジェイ・フォレスターの隣にオフィスを構えました。たびたび顔を合わせるようになった2人は、都市政策について話し合うようになったのです。

コリンズはフォレスターのシステム的な視点に興味を持ち、フォレスターの要望に応えてボストン市役所から都市政策に精通した人たちをかわるがわるMITに呼び、半年にわたって都市政策について議論を続けます。そこから得られたシステム分析や政策分析をまとめたのが、フォレスター著の『アーバン・ダイナミクス(Urban Dynamics)』でした。

この本の中で、フォレスターは、ボストン市から学んださまざまなつながりをもとに、一般的な都市のモデルを構築し、250年間の都市の盛衰についてのシミュレーションを行います。その結果、都市問題の構造は複雑に絡み合い、また現在とられている都市政策は、短期的には改善があるように見えるが長期的には都市問題をかえって悪化させると論じたのでした。概要は次のようになっています。

たいていの都市では、産業化や商業化によって、ビジネス、雇用、住宅が増加します。当初、これらの増加は、仕事や昇進の機会やよりよい住宅に住めるチャンスであると考えられます。さらに、都市の税収も増加しますので、それを活用して教育や医療・福祉、他の公的サービスが充実します。これらの魅力に惹かれて、周辺の農村部や他の都市からの人口の流入が起こります。そして人口が増えると、需要も労働供給も増えて、さらにビジネスも、雇用も、住宅も成長します。

しかし、このような成長がいつまでも続くわけではありません。シミュレーションによれば、都市の誕生から100年も経つと、たいていの都市は成長の限界と、それに続く衰退を迎えます。都市の土地面積にははじめから限界がありますが、開発が進むことで新たな開発に残される土地は少なくなり、新興ビジネスや新しい良好な住宅などの開発のペースが鈍ってきます。

そこで起こるのが、ビジネス及び建築物の老朽化です。産業であれ、商業であれ、当初大きな比率を占めるのは新興ビジネスです。ビジネスの成長期には雇用が増加するだけでなく、管理職などの昇進の機会も多く、魅力的な労働需要を創りだします。しかし、数十年の時間の経過と共に多くのビジネスは成熟し、衰退期を迎えます。そうすると、面積あたりの雇用数は減少し、また、昇進の機会もほとんどなくなります。こうして、求められるスキルレベルの低い仕事が中心になっていきます。

さらに、建築物についても時間の経過と共にその内訳が変化していきます、当初は都市部に魅力的な住宅が増えます。しかし、老朽化と共に、富裕層は都市部を離れ、労働者向けの住宅が都市部に残り、やがて低所得者向けや失業者向けの住宅となって、都市中心部のスラム化が始まります。

こうして、労働需要と住宅供給の両面から、時間の経過と共に都市部での失業者や半失業者を増やしていきます。また、ビジネスは衰退しているため税収も十分ありません。その結果、人口当たりの公的サービスは悪化していきます。たいてい、税率も上げなければならなくなってきます。ビジネスも、雇用も、住宅も衰退し、公的サービスも劣化した都市の魅力はどんどんと悪化していきます。現状が悪化していたとしても、人々の都市に関して抱くイメージはそう簡単に変わらないので、しばらくの間は流入が続きます。この段階になると、人口流入は、失業を悪化させ、産業活性化や行政サービスなどあらゆる面において、都市の魅力を衰えさせる原因になります。都市外の人のイメージが変化し、人口流入が止まって人口が安定するまで、さまざまな状態の悪化が続きます。

都市の社会問題が顕在化するにつれ、行政も先細る予算の中でさまざまな取り組みをはじめます。低所得者向けの住宅供給や職業トレーニングなどです。フォレスターはこれらの低所得者・失業者向けの政策がかえって貧困の問題を悪化していると論じました。

この主張は、当時大変な物議を醸しました。彼の分析では、都市中心部はすでに老朽化が進み、古い住宅の供給過剰の状態にあるのに、そこに低所得者向けの住宅を供給することは、過剰状態をさらに悪化させる。都市外部からの人口流入を呼んで失業者を増やす一方で、都市部の本来付加価値の高いはずの土地がビジネスに有効活用されないために、雇用を創りだすことを阻害していたと考えたのです。

それに代わる彼の政策提言は、産業や建築物の老朽化を放置せずに、積極的に解体し、新しいビジネスを興し、そのための再開発を行って活性化し、継続的に都市の再生を図るというものでした。

以上の政策については、アメリカの文脈でのものなので、ここでは詳しくは論じません。しかし、この分析のために使われたシミュレーションモデルは、アメリカの都市を念頭においてつくられたものの、どれくらいの面積があるか、世帯あたり何人でどれくらいの大きさの住宅を必要とするかなど、さまざまなパラメーターを変えても、基本的には同じパターンが創り出されることが確認されています。日本についても、この構造の上にさまざまな施策をマッピングして、その有効性を議論することができます。

じっくりと考えると見えてくるのは、まず第一に、人口の流入が都市の成長のエンジンになっていると同時に、制約・衰退要因になっていること。ただし、自己強化型ループによる成長の効果が大きいのは最初の90年くらいまでで、成熟期にはバランス型ループの制約の効果のほうが大きくなり、衰退期に入ると人口の減少でむしろ悪循環が起こってきます。2つの相反する効果が、一様ではなく、時間の推移とともに違った強弱で起こっています。

そして第二に、人口の流入をもたらすのはその都市の魅力です。行政は、さまざまな要望をもつ市民の声に応えて、政策やプログラムを実施して、都市を魅力的なところにしようと努力します。しかし、そこで魅力を高めることこそが、追加的な人口の流入を呼び込んでしまい、一つの問題を解決しても、別の問題が生ずるジレンマの構造に陥ります。言い方を変えれば、成熟期以降の都市にとっては、都市を魅力的にしようと努力する限りにおいて、人口は流入し続け、次々と都市の魅力を下げる圧力がかかり、新たな問題を生み続けます。

このような状況において、ジェイ・フォレスターは、都市政策の要諦は、「都市を魅力的にすることではなく、どこを魅力的にしないか」を選択することにある、としています。

つまり、市民や行政が一緒になって、土地利用の制約であれ、税であれ、行政サービスであれ、多少不便なことでもこれはみんなで我慢しようという選択をしなくてはいけません。(但し、社会的弱者に不便を押しつける政策は論外です。)それができない限りは、システムの構造が、大量の失業、産業空洞化、過大な社会負担による財政赤字や行政サービスの崩壊など、もっと代償の大きな不利益をもたらすことになるからです。

都市は、初期の人口とビジネスの成長や土地開発によって、経済や社会、文化の発展を享受しますが、適正な人口密度を超えてしまうケースが多く見られます。人口密度が私たちの経済や社会や環境にとってもっとも適切な都市環境を提供するレベルで、その都市独特の不便さを皆で受け入れ、人口の流入を抑制する策を講じる必要があります。言い方を変えると、人口が一定規模の範囲内で、恒常的な衰退と再生を続ける経済社会システムのビジョンづくりが求められるのです。

次回は、地球規模で起こる成長の限界を紹介いたします。

(つづく)

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