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東洋思想で視点を変える(1)

2021年10月04日

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道教の始祖とされる老子は、その存在自体が謎のベールに包まれています。老子の著書と伝えられる『老子道徳経』(単に『老子』とも『道徳経』とも表記される)は、世界で聖書の次に最も多く翻訳されている智恵の書とも言われており、そのリーダーシップ論はアメリカの経営者の間でも高い人気を誇っています。

「弱の強に勝ち、柔の剛に勝つ」「柔弱は剛強に勝つ」これらは、『老子』の中にある言葉で、弱いものが強いものに勝ち、柔軟性のあるものが、剛強なものを制することができるという意味を表します。水のように柔軟で形にとらわれない、若木のように嵐が来てもしなり倒れない、そういったしなやかであることの大切さを老子は繰り返し説いています。「柔弱であれ」というのは、彼の教えの根本の一つとされます。"柔弱"とはどのようにあることなのでしょうか。

柔弱さの強みとは?
ハーバード大学の中国哲学講座で教鞭をとるマイケル・ピュエット氏は、自身の著書の中で、「『老子』のいう弱さは、意外にも、ばらばらの要素をつないだり、感じとったり、それに働きかけたりすることを基盤としている。」(*1から引用)と述べ、要素と要素の間の関係性に注目しています。

ここで、柔弱さの働きについて興味深い研究があるのでご紹介します。豊橋技術科学大学教授の岡田美智男さんは、「弱いロボット」と人との間で交わされるコミュニケーションや関係性について研究をしています。例えば、ゴミ箱型のロボットと聞くと、普通は人の代わりに自動でゴミを拾い集める機能を備えた機械としてのロボットを想像すると思います。ところが、「弱いロボット」はゴミの近くでよたよたしている。その困ったような様子を見て、人が思わず手助けして、ゴミを拾い入れる。「弱いロボット」は、従来のロボットと人との関係性を、その"弱さ"により巧みに変化させます。つまり、そうして人間の共感を呼び、相手の力を引き出すことでゴミを集めるという目的を達成するのです。

チームや組織、リーダーシップの観点において、柔弱さはどのような働きがあるでしょう。リーダーといえば、トップダウンで強い指導力を持つリーダー、英雄的なリーダー、カリスマ的なリーダーなど力強い人物を思い浮かべがちです。リーダーであれば自身の無知であったり弱点に気が付いても、評価が下がるかもしれないので誰かに悟られたくない、隠さなければならないと考えるのが普通かもしれません。しかし近年では、これからの時代に求められる新たなリーダー像として、「システムリーダー」というあり方が注目されています。システムリーダーとは、必要な変革に向けてリーダー自身が率先して動くのではなく、チームや組織で他の人たちが課題の克服に向けて取り組み学んでいけるように支援し、集合的なリーダーシップを人々の間に育むタイプのリーダーのことをさします。『学習する組織』の著者のピーター・センゲ氏らは、システムリーダーのコア能力について、「システムリーダーの貢献の中でも最大のものが、無知の強みから生まれることもある。この強みによって、自明と思えるような質問を投げかけたり、継続的な学びと成長を求めるオープンな姿勢やコミットメントを体現したりすることが可能になり、ひいてはこれらの行動が、より大きな変化の取り組みに浸透していくからだ」(*2から引用)と述べ、一見"弱み"とも思える無知から生まれる強みを紹介しています。職場やチームなどあなたの周囲で効果的な変化を生み出している仲間は、どのようなリーダーシップを発揮しているでしょうか。

『老子』の81章句の中では強弱、剛柔のような逆説的な概念を用いた教えが多く見られ、世界・世の中に対する見方を問い直し、固定観念を見つめ直す「鏡」のような役割も果たしてくれます。紀元前の激動する戦乱の世で生まれた『老子』は、「ビジネスリーダー必読の一書」といわれ、世界中で読み継がれてきました。古典でありながら現代にも通じる普遍的で重要な価値を持っており、これからの時代に必要なリーダーシップとは何かを問い直す、新たな視点やヒントを示してくれるのではないでしょうか。

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*1『The Path(ハーバードの人生が変わる東洋哲学)』から引用
*2スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー ベストセレクション10 システムリーダーシップの夜明け:変化を起こすのではなく、変化が生まれるように導くから引用

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