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チェンジ・エージェント20周年記念シンポジウム 基調講演ジリアン・マーティン博士スピーチ(1)

2025年06月16日

国際的に活躍するファシリテーターを招へい

本記事では、創業20周年記念シンポジウムに招聘したジリアン・マーティンミアーズ博士の基調講演スピーチをご紹介します。スイスに構えるブライト・グリーン・ラーニング創設ディレクターであるミアーズ博士は、これまで30年近く、国連機関の会議やダボス会議など世界68か国でファシリテーションを行うと共に、国際ファシリテーター協会マスターファシリテーターとして後進の育成にも力を注いでおられます。

チェンジ・エージェント社とは創設以来のよきパートナーです。2005年にシステム思考ワークショップを初めて実施した際、デニス・メドウス氏と共にファシリテーターとして来日し、当社主宰システム思考研修の礎を築きました。また、2018年から共同で開催する「ファシリテーション基盤」セミナー講師を担っています。

今回、彼女の長きに渡る国際的な実務経験と昨年博士号を取得した際の研究実績(※)に基づいて、「深いレベルでの変容」を実現する組織に見られる特徴はなにか、そのエッセンスを語っていただきました。ca_20th_250419_82.jpg

変容を導く学習 -真の変化は学び方から始まる

オープニング

チェンジ・エージェント株式会社の20周年記念というこの場に、チェンジメーカーという重要な方々の前でお話をさせていただくことを大変光栄に思います。

これから私と一緒に2017年にタイムスリップしてください。私はデスクに座り、過去20年間に携わってきた数十もの山積みになったサステナビリティプロジェクトの報告書に囲まれています。いずれも知的で戦略的、熱意をもって取り組んだ質の高いプロジェクトばかりでした。しかし、ある疑問が頭から離れませんでした。
「これらすべてから、私たちは一体何を学べているのだろうか?」

私は、世界的な環境ネットワーク、アフリカ全土の若手リーダー、多国籍企業、国連などと仕事をしてきました。戦略会議、多様なステークホルダーによる対話、短期間集中でのカリキュラム設計などをファシリテートしてきました。いずれもミッションは刺激的であるにもかかわらず、いつも同じパターンを目にしていました。それは、目を見張るような素晴らしい活動が、必ずしも根本的な変化につながっていない、ということです。こうした複雑な社会・生態システムにかかわる組織が、どのように自分たちの活動から学び、その学びを自分たちの実践に生かしているのだろうかと、疑問に思ったのです。

そこで私はすこし普通でないことをしました。この状況を見るために一歩引いて研究者になることです。次の問いを持って博士課程に進んだのです。

「うまくいかない組織もある一方で、なぜ、いくつかの組織は深いレベルでの変容に到達できるのか?」

深いレベルでの変容とは?

先に進む前に、組織において、深いレベルでの変容(トランスフォーメーショナルチェンジ)とは何を意味するのでしょうか ? 私たちが意味するのは、深いところにまで及ぶ変化についてです。

  • 価値観と規範の変化― 人々がどのように考え、関わり、意味づけるか
  • 組織の枠組みの変化-どのように権力が分配され、意思決定がなされ、成功の定義がなされるか
  • ナラティブの変化-世の中における組織の役割をどのように理解し、それを外部だけでなく内部にもどのように伝えるか
  • 実践の変化-働き方、コラボレーション、適応の新しい形態
  • そして最後に、長期的な影響-変化が組織の枠を超えて、シフトさせようとしているシステムにまで波及する変化

こうした変化を起こす組織には、どのようなことがあったのだと思いますか?
戦略コンサルタント会社が参入し、変革プロセスを主導したのだろうか?
先見の明のあるリーダーがトップから変革を推し進めたのだろうか?
現状維持が不可能になるような危機があったのだろうか?

おそらく思い浮かびにくいのは、 「高次の組織学習」という言葉です。

それはいったい何?と思われたかもしれません。

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高次の組織学習とは何か?

組織学習とは、組織が経験から学び、それに応じて進化していく方法です。

私は、博士論文で155の国際的なサステナビリティ組織を調査し、そのうち4つの組織を詳細に調査しました。これらの組織の学習能力と適応能力を促進した要因、あるいは阻害した要因を研究しました。その結果、変革をもたらすには善意だけでは不十分であることがわかりました。必要な要素は以下です。

  • 学習文化
  • 内省と探究の真の能力
  • 適切な構造とシステム
  • そして、決定的に重要なのは、学習を支援するリーダーシップです。

ここに意外な発見がありました。ほとんどのリーダーは、自分たちの組織は学ぶことに長けていると信じていました。しかし、多くの従業員はそうは思っていなかったのです。意図と現実の間にはしばしばギャップがあったのです。そして、このギャップは努力の問題ではなく、実際にどのような種類の学習が行われているかによるものでした。

その違いを紐解いていきましょう。

  • 低次学習とは、既存の枠組みのなかで問題を解決することです。これは継続的改善と関連づけられることが多く、シングルループ・ラーニングと呼ばれることもあります。
  • 高次学習はダブルループ・ラーニングとも呼ばれ、「そもそも私たちの枠組みは本当に適切なのだろうか?」と問いかけます。それは前提に疑問を投げかけ、隠れた信念を浮き彫りにし、変容を可能にします

健全な組織にとって、どちらも重要です。しかし、低次の学習がもたらす漸進的な変化に対して、高次の組織学習はシステムチェンジをもたらすことにつながります。では、高次の組織学習とは実際にはどのように行われるのでしょうか? そして、これを実現するために、組織とリーダーは何をする必要があるのでしょうか?

つづく

(※)『Dynamics of transformational learning in non-governmental organizations - Erasmus University Rotterdam

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