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チェンジ・エージェント20周年記念シンポジウム 基調講演ジリアン・マーティン博士スピーチ(2)

2025年06月16日

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変容を導く学習 -真の変化は学び方から始まる

高次組織学習の5つの特徴

1. 探究を支援する環境

これは、多様な視点が歓迎され、現状に対して異議を唱えても安心・安全な空間をつくることを意味します。単に感じが良いだけではなく、真の探究のための心理的安全性を生み出すことです

ある非常に重要なスタンダードを設定するために行われた、NGO、企業のサプライチェーン関係者、人権擁護団体、労働擁護団体など多様なセクターが関与するプロセスでは、当初、すべての会話が対立的に聞こえ、信頼関係の欠如が見られました。参加者はこうした「敵対」セクターの人々と協力することに慣れていなかったのです。そこで私たちは、参加者が様々な考え方について意見を交換できるように綿密に設計したオープニングエクササイズを開発しました。これは、各発言に対して投票形式で、賛成なら緑の丸いシール、反対なら赤の丸いシールを貼ることで、匿名で賛否を示すものです。

このエクササイズを通じて、参加者は安心して本音を表明できるようになりました。また、多くの人が意見の一致が多いことに驚くと共に、合意形成に向けて協力が必要な分野も明確になりました。プロセスが進むにつれて、参加者は自分たちの見方が目に見える形で残り、明確な方向性を確立することに役立っていると価値を感じて、より安心感を覚えるようになりました。

2. 質の高い内省

内省とは、何が悪かったかを分析するだけではありません。一歩引いてパターンを見ることでもあります。これは慢性的な問題を特定することにも役立ち、それにより「なぜこのようなことが起こり続けるのか?」と問いを立てることにつながります。

変化の過程にあった国連機関の140名規模の大規模部署では、最近いくつかのチームが一つに統合されたにもかかわらず、チームの中に縦割りが残っていました。職員間でも分断化されたまとまりのない感覚があり、上級管理職とのコミュニケーションにも支障が生じていました。経営陣は、意思決定に役立つスタッフからの視点やアイディアを求めていました。一方でチームは組織内の変化と外部環境の変化の両方に対処する必要があり、とても多忙でした。そのため、敢えてチームとして活動を一時的に止めて、立ち止まって内省するステップが必要とされていました。そこで私は、組織全体ではなく、チーム単位で実施するインタラクティブなSWOT分析演習を開発しました。新しいチームの結束を強めることと、すべてのメンバーが振り返りのプロセスに貢献できる機会をつくることを意図しました。

この演習の実施にあたり、若くて熱心で信頼されている若手プロフェッショナルをファシリテーターとして育てました。このプロセスは、活力を与え楽しく参加できる方法論を用いて設計され、このことはまた、権力を持つ人たちによる結果への影響を軽減し、多様な視点を取り入れることにも役立ちました。その上で、異なるユニットの結果を比較しながら傾向を捉える段階では、若手と上級管理職をペアで組んで分析してもらいました。結果として、こうした参加型の環境スキャン(外部環境分析)と内省によって、リーダー層の意思決定に、より説得力のある力強いシグナルが送られることになりました。

3. 生成的に、多様な見方を取り入れて考える

こうした学習は対話を通じて生まれます。議論ではなく、対話です。判断を保留し、メンタルモデルを浮き彫りにし、共に考えることです。これによって、それぞれの視野がもたらす合わさることで生じる価値に基づいた共創と解決策の創出が促されます。

ある大規模な国際公衆衛生ネットワークでは、新たな戦略の主体性を確保したいと考えていました。というのも、以前の計画プロセスでは十分なオーナーシップが発揮されず、ネットワーク全体としての成果を報告することが難しかったためです。組織は、運営にかかわる多様な代表者からの意見を求めていました。しかし、ネットワーク組織に非常に近い立場の人もいれば、遠い立場の人もいたため、全員が同じ考え方を共有しているわけではありませんでした。しかし、それでも重要なステークホルダーであることに変わりはありません。そこで、理事会、加盟組織、スタッフから代表者を招き、この組織をどうしたいか野心的なシナリオを一緒に共同で策定しようと皆を集めました。その際、ファシリテーターは目的地までの経路を示す旅の比喩を用いました。壁に大きな絵を描き、これらの経路を可視化するとともに、まわり道、潜在的な遅延、加速要因なども書き込みました。この旅という比喩を用いた作業はとてもうまくいき、グループがさらなる発展に向けて最もポテンシャルのある経路を選ぶために、この視覚化された成果物が役立ちました。

4. 未来について共有されたビジョン

変容に向けて学ぶには、共通の目的意識と集団としての方向性が必要です。人々は変化が必要であると同時に、それが可能であるとも感じていなければなりません。

ある国際的な宗教団体の大規模な人道支援部門は戦略ビジョン策定プロセスを進めていましたが、ファシリテーターには口頭での議論が行き詰まっているように感じられました。組織が直面している課題に対して、組織内の様々な部門がどのように連携すると最も効果的に機能するかという重要な議論があり、その議論において多くのアイディアが飛び交っていました。しかし、参加者は必ずしも互いの意見に耳を傾けているわけではなく、ファシリテーターがまとめられるような合意形成には至りませんでした。

そこでファシリテーターは前に立つのをやめて、参加者の一人にペンを渡し、これまで議論してきた内容に基づいた組織の将来像を描いてみてもらえないかと頼んだのです。すると、この人は議論をもとにして、完全ではないけれど新しい組織の枠組みをフリップチャートに描いてくれました。このフレームワークはこれまでの議論の内容と深く結びついたもので参加者の共鳴を呼び、グループはこの枠組みを描き直して改良することに集中しました。その結果、以前のものとは劇的に異なる、新しい組織フレームワークの原型ができあがったのです。このことは戦略ビジョン策定プロセスにおける大きな変化をもたらした瞬間として、関係者の間で広く認識され共有されました。

5. 外部の専門家またはファシリテーターによるサポート

これらのプロセスには、多くの場合サポートが必要です。熟練したファシリテーターは、社内メンバーか外部かを問わず、真摯に対話ができる場をつくり、前提を問い、困難に陥った状況でもグループが前に進むように支えることができます。

ある小規模な国際環境保護NGOの事例では、理事会の一部メンバーが、資金調達環境の現状から、NGOの活動によるインパクトをより詳細に証明することが求められていると感じていました。このメンバーは、団体のもつ変化の理論を修正してインパクトを強化する必要があると思っていました。それには、NGOのこれまでの活動を評価すると同時に、戦略転換への道を開く、繊細なプロセスが必要でした。関係者はみな、組織内に強く支持されている見解や立場があり、それらをNGOの最初の戦略計画に集約する必要があることを認識していました。このNGOでは、過去、理事と職員対象にしたファシリテーションスキル研修を行い、NGO活動のミッション遂行に適用したことがありましたが、今回は、その学びを組織内の戦略策定プロセスに活かす初めての機会となりました。ファシリテーションの価値については理論と実践の両面で明確だったので、グループは組織内で何を変える必要があるかといった本質的な議論を促すプロセスを設計・実施することができ、さらに、優れたファシリテーション実践例を用いて、こうした問題に対処するための正式な社内プロセスも共同して新たにつくることができました。

ファシリテーションの役割

ファシリテーションについて少し補足します。私は、ファシリテーションは「おまけ」ではなく、高次学習に欠かせない中心的な要素だと考えています。この役割を担うのは内部でも外部でも構わず、ファシリテーション型のリーダーシップスタイルの支えがあると、変容プロセスを促す強力な組み合わせとなります。

ファシリテーターは探究のための環境を整え、内省のプロセスを導き、新たな共有ビジョンが生まれるような思考の手本を示します。私自身もガーデナー(庭師)であり、ファシリテーターを「学びのガーデナー(庭師)」、つまり変容が根づく環境を整える存在だと考えています。

チェンジメーカーのみなさんへ4つの持ち帰っていただきたいこと

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では、明日から何ができるでしょうか?

  1. システムを見て理解しましょう。そしてシステムを維持している可能性のある一連の前提、規範、組織構造について問いなおすように努めましょう
  2. 内省を自分たちのリズムに組み込みましょう。会議中に、出来事に焦点を当てた状況報告だけでなく、「パターンを見つける」ための時間を設けましょう。これには練習と規律が必要です。リーダーが内省の時間など取れないと思っている時こそ、最大の恩恵があるでしょう。
  3. ファシリテーション・スキルに投資しましょう。社内の推進者を育成する。熟練したパートナーを雇う。形だけの実施ではなく、真の対話をデザインしましょう。
  4. 学習に対する共通の認識と言語をつくりましょう。学びを可視化し、大事なことだと認識共有する-廊下でのちょっとした会話から戦略的な意思決定会議に至るあらゆる場面で。

終わりに -- 目的への回帰

私の研究対象となった4つの組織は、その一部を講演のなかで事例として紹介しましたが、いずれも、現状と組織戦略が目的に合致していないという認識からはじまりました。それぞれの出発点には独自の特徴がありました。ある組織では、分散型組織の国別プログラムを目的により合致させることで、プロジェクトや報告サイクル、資金調達、コミュニケーションなどにより大きなインパクトを出すことが必要でした。ほかの組織では、資金調達環境の劇的な変化への適応や、急速に増加する会員組織と一体になって組織を再構築し、新たなパートナーや受益者へのアクセスを拡大すること、そして、変化する外部環境に基づいた新たな変化の理論の必要性、といった特徴がありました。

これらの組織は、新たな状態がどうなるか、すなわち、自分たちのナラティブがどのように変わるか、組織の枠組みや実践がどのように変容するかについて、学びの旅の最初からはっきりと分かっていたわけではありませんでした。しかし、それぞれの組織は、独自の、されど意図的に構造化され、細部にまで配慮されたファシリテーションプロセスを通じて、高次の組織学習を促進するために必要な状態を作り出すことができました。

こうした経験は、組織が必要としていた変容を実現する上で役立ちました。ある組織は、非常に独立していた各国事務所を、インパクトを示しやすく集団での学びがより進みやすい、一元化された体制にまとめることができました。ある組織は、組織の資金調達基盤を根本的に改革しました。またある組織は、増え続ける加盟組織の実質的な参加を含む、新しい組織戦略を共有し、協力して責任を担うことを達成しました。そしてある組織は、タスク遂行環境の変化により良く反応するために、組織ミッションの焦点を新しくすることについて、階層を横断して全体で合意しました。これらは、組織レベルで、即座に且つ容易に変えられるものではありません!私たちはみな、取り巻く環境が絶えず変化していて、終わりのない学びの旅であることを理解しています。

総括すると、私たちは皆、持続可能性、公平性・公正さ、道理に力を尽くしているからこそ、ここにいます。しかし、目的だけではそこに到達できません

私たちは、学ぶ必要があります。単に効率的に学ぶだけでなく、より勇気を持って。
私たちは、私たちが保持していて、潜在的に受け継いでいる前提を疑う必要があります。
私たちは、違いを超えて共に考える必要があります。
私たちは、変化にただ反応するような組織になるのではなく、変化を生み出す支援をする必要があります。

もし変化を創り出したいと願うならば、学び方そのものを根本から変えなければならないのです。

ご清聴ありがとうございました。

(日本語訳 北見幸子)

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