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2025年もいよいよ残るところ数日となりました。チェンジ・エージェント社にとって20周年となった今年、従来から掲げる「システムリーダーシップ」の基軸に加えて、「システムチェンジ」をより全面に出しての発信を強める年となりました。

同時に世の中のシステムチェンジへの関心が高まっていることを感じます。この1ヶ月だけで、システムチェンジに関する講演等の依頼が3件ありました。暦年上の2025年、そして21世紀の第一四半期を締めくくる本記事では、システムチェンジに関して改めて取り上げたく考えています。

システムチェンジとは

これまで「システムチェンジ」の定義は、アショカ財団などによって「ダイレクトサービス」に対比したものが引き合いに出されていました。ダイレクトサービスとは、貧困層への食料配給や紛争地域での医療など、目の前の必要な支援を直接届けるサービスです。これらの支援は、「顕在化した問題」に対処する一方で、その発生抑止などの根本的な解決とはならず、貧困・格差の拡大や紛争の増加につれて支援への要請が高まる中、支援するリソースが限られている現実に向き合うことなります。

これに対してシステムチェンジは、世の中に深く根を張り、社会の一部となった問題の真因に取り組み、根本的な解決策を図るものとして位置づけられます。これは、政策や社会構造自体の変革を必要とし、単独組織やプロジェクトの課題解決や働きかけを超えて多様なプレイヤーの協業、共創を実現していくアプローチです。例えば、過去のわかりやすい例は、産業革命後海洋交通の主流だった帆船から蒸気船への転換、あるいは20世紀初頭に米国において馬車・鉄道中心の陸上交通網が、自動車と舗装道路網に変化していきました。より最近の身近なところでは、20年前はパソコンや携帯電話を中心とした情報通信が、ネットワーク上のサーバーサービスやスマホ端末に置き換えられました。また、働くのは事業所が当たり前だったのが今では自宅その他の多様な場所で仕事ができる選択肢が広がっています。システムチェンジは、振り返って見れば、数多く起きていますが、それは単独の組織やモノ・サービスでできたというよりも、まさに多様なプレイヤーたちの協業や共創で、複合的・重合的に起きてきました。

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チェンジ・エージェント社も設立以来、氷山のより奥底にある構造やメンタル・モデルへの働きかけを施策の柱として、レバレッジポイントなどのアプローチを推奨してきましたが、近年のシステムチェンジに関する論考を学び、各国の実践者たちと意見交換する中で、これまでの取り組みをより統合した表現に出会いました。カナダ人であるアダム・カヘンが教示してくれたのが、Social Innovation Generation (SiG)によるシステムチェンジの定義です。

人々・組織・制度の振る舞い、関係性、権力、リソースの流れ、ルール、そして基盤となる価値観を変革し、新しく望ましい結果が持続的に生まれる状態をつくること

この定義において、人々・組織・制度は関心対象となるシステムを指します。振る舞いは、システム思考では「挙動」とか「パターン」と表現される、氷山の2層目にあたる事象を表しています。そして、関係性、権力、リソースの流れ、ルールは、システム構造の主要要素を指します。そして、価値観は、氷山モデルではメンタル・モデルの層に該当し、個々人の価値観などの集合体が、社会の価値観や文化を構成すると共に、社会の価値観や通念が個々人の価値観に影響するクロススケール(規模横断)の系をなす部分です。そして、これら振る舞い、システム構造、価値観の変革を通じて、「新しく望ましい結果が持続的に生まれる状態」をつくることがシステムチェンジであるとする定義です。これは、より進歩的な定義であると感じています。それは、歴史上の一時点によかれと思った変化でも、時代や価値観の変化と共にその有用性が薄れることがしばしばあります。「新しく望ましい結果」、が持続的に生まれるということは、常に学習し改善を志向し、社会イノベーションが生まれ続ける関係性やエコシステム(生態系)、仕組みやガバナンスが備わる状態を目指すことを意味します。

このシステムチェンジの定義には、これまでの根本原因への働きかけがもちろん含意されています。表面的なニーズ対応ではなく、問題を再生産している構造・ルール・権力配置・規範に働きかけるからです。そして目指すのは、一時的な改善ではなく、新しい振る舞い、構造、価値観が、新しい「当たり前」になることです。コロナ禍の初期から、過渡期、そしてある程度の落ち着きを見る今日に至るまでに、対人の接触の仕方についての「当たり前」が大きく変わるのを私たちは実感しました。別の例では、かつて日本の職場、交通機関、飲食店などで喫煙と受動喫煙が当たり前だった状況から、新たに分煙と健康配慮が当たり前となるような変化を経験しています。

システムチェンジを起こすカギ

こうしたシステムチェンジを起こすカギは、実践(振る舞いのレベル)、制度・政策(構造のレベル)、文化(価値観のレベル)の間で複数のレベルで変化が連動することにあります。組織開発の分野でも、どれか一つのレベルだけの変化では持続性を欠くことが多いため、氷山の複数のレベルが連動して変化することがレバレッジある施策のカギとなることを学んできました。

システム理論に基づきソーシャルイノベーション、システムチェンジを推進するフランシス・ウェストリーらは、変化の仕方についてスケールアウト、スケールアップ、そしてスケールディープの3つを提唱します。スケールアウトとは、よりより実践、慣行、モノやサービスが、その再生産や普及を通じてより多くの人、地域、組織に広がっていくことで、ソーシャルイノベーションの世界ではよく知られた考え方です。新しい技術の普及や企業の自発的な社会環境の取り組みなどはこのパターンに相当します。上述の3つレベルで言えば、振る舞いレベルの変化が横展開していくイメージです。

スケールアップは、ミクロレベルで起きている実践をより広範に広げるために、ルールや制度を変えることで、その定着を図ろうとするアプローチです。省エネの基準や人権に関するスタンダードがある程度多くのプレイヤーに広がってきたら、それを義務づける規制を入れたり、遵守しない場合には罰則を設けるなど、フレームワーク的にインセンティブや罰則をデザインします。氷山ではシステム構造レベルに相当するものが多いでしょう。

そして、スケールディープとは、マインドセットやハートセット、価値観や文化レベルの変化を広げるアプローチです。新しい振る舞いや構造を「仏像」に例えるなら、まさに仏に魂を入れるような変化です。私たちは、頭の中で合理的に社会の課題や営みを考えることがあります。しかし、大規模な震災や水害などの現場で生死に向き合う体験をすることや、そうした人たちと直接触れ合う機会をもつことで、より深いレベルでの変容を体験することがあります。社会の中で「弱者」たちを支援するつもりで接していたところが、支援者として私たちが根本原因となるシステム構造や文化の一部となっていることを自覚したり、あるいは弱者と考えていた人たちの人間的な強さに触れたりなどをきっかけに、大きく価値観やメンタル・モデルが変わることもその一例です。

ある意味、スケールアップであれば、簡単ではないとはいえ、経済や政治の意思決定者たちを動かすことでなしえてきたことでもあります。しかし、もっとも難しく、一方で身近に起こりうるのがスケールディープだとも感じています。もちろん、システムチェンジに至るまでには、私たち一人ひとりが主体的に課題に向き合い続け、そして、システムの周縁で裂け目が生じていたら、それに向きあい、ウェストリーの言うところの経済、政治、文化上の需要が広がる機会の窓を的確につかむという巨視的な視点も求められます。

ピーター・センゲやジョン・カニエらは、2018年に新しく出した文献において、システムチェンジのための6条件を提示します。上述の構造や価値観レベルの変化に加えて強調するのが、システムにおけるパワーダイナミクス(権力動態)を変えること、そして、プレイヤーたちが関係性を意識し、本物の絆で結ばれるようなつながりを築くことが重要であると示しました。

これから日本において、あるいは日本発でのソーシャルチェンジを実現する上で、システム内の利害関係者や構成要素だけでなく、それらの関係性に焦点を当てて、新しい協働、権力とリソースの分配、そしてそれぞれの役割を生んでいくことがカギとなると予感しております。

チェンジ・エージェント社では、そのための能力開発により一層邁進していく所存です。新しい年、新しい四半世紀に向けて、皆様がそれぞれよりよい未来に向かっていくことを祈念します。ご縁あって、ご一緒にシステムチェンジへの道を進んでいけるようならうれしく思います。どうぞよいお年をお迎えください。

(小田理一郎)

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